家庭の獣医学|No.10 フィラリア症について

今回は今が予防開始のまっ只中、フィラリア症についてお話をしたいと思います。フィラリア症は、白く細長いそうめん状の犬糸状虫が蚊を媒介して感染し、犬の心臓に寄生してしまう本当に怖い病気です。普通、寄生虫と聞くとノミやダニのように体の表面に寄生したり、お腹の中に寄生する寄生虫を連想する飼い主さんが多いと思いますが、フィラリアはその寄生場所が心臓内部という、それこそ命に関わる場所なんです。

この病気には、蚊の存在が大きな役割を果たしており1度蚊の体内にフィラリアの仔虫(ミクロフィラリアといいます)が取り込まれないと、仔虫のフィラリアは成虫にまで発育しません。

犬の体内で生まれた沢山のミクロフィラリアは蚊の吸血行為によって蚊の体内に移行していきます。その蚊の体内で発育・成長し再び犬に感染する能力を獲得し、犬が蚊に刺されることで犬の体内に侵入していきます。そして、犬の体内でフィラリア幼虫は成虫に成長していき心臓などに寄生します。そしてその成虫がまたミクロフィラリアを増やして・・・。このように犬→蚊→犬→蚊→犬→・・・と感染の輪が広がっていきます。

こうしてフィラリア症には蚊の存在が深く関わっているため、フィラリア症の予防も蚊の活動期間が大きく関係してきます。

一般的な飲み薬でのフィラリア予防では、蚊の活動開始1ヶ月後から感染終了1ヶ月後までという予防期間になります。(たとえば、4月から11月に蚊が発生する(感染期間)場合は、5月から12月が予防期間となります。

「蚊が媒介するフィラリア症なのにその予防が1ヶ月ズレるのは何故だろう?」と思われる飼い主さんもおられると思いますが、フィラリア症の予防薬は、心臓に寄生してしまう前にミクロフィラリアを駆除するために投与するんです。つまり、フィラリア駆除効果が持続するのではなく、投薬前1ヶ月間に感染したフィラリアの幼虫を駆除するものです。効果が1ヶ月持続するわけではないんです!!

「フィラリアは蚊がうつす病気なんですよね」とご存知の飼い主さんは沢山おられますが、月に1度のフィラリア症の予防薬が実際にはフィラリア幼虫の駆虫薬であることまでご存知の飼い主さんは意外と少ないんですよ。1ヶ月前に感染したフィラリア幼虫を駆虫する目的でフィラリア症のお薬を飲むから、蚊の感染期間と予防期間が1ヶ月ズレるんですね。

ここで、フィラリア症にかかってしまった場合の症状をお話します。

フィラリア症の症状の重症度は心臓の大きさと感染成虫の数によって大きく左右されます。ですので、もともと心臓の小さな小型犬では少数のフィラリア成虫感染によっても重篤な症状に陥ってしまいます。

初期には食欲が落ちてくる、咳き込む、疲れ易くなるなどの症状ですが、それを放っておくと、お散歩中に失神する、息をするのが苦しそう、お腹に水が貯まって膨らんでいる、おしっこが赤くなる など症状が重篤になっていきます。今まで沢山のフィラリア患者動物を治療してきましたが、末期の患者動物は本当に苦しんで可哀想です。フィラリア症は予防をしておけば、理論的には100%予防可能です。誰も愛する我が子が苦しむ姿は見たくはないはずです。しっかりとフィラリア症の予防をしてあげてくださいね。
ちなみに、フィラリア症の予防方法は飲み薬だけでなく、背中に塗布するスポットタイプや注射による予防もあります。かかりつけの動物病院に相談をして、一番その子に合った予防法をしてあげてくださいね。


飼い主の皆さんは、「ウチの子は小型犬で、室内にずっといるから蚊に刺されないの」と油断(?)安心(?)されて、フィラリア予防をされない方も残念ながらおられます。ですが、私たち獣医師はそういう環境にいても感染してしまった患者動物を沢山みています。事実、「室内にずっといる」と言われても、動物病院に来るために外出しているのですから、その間に感染する可能性も0%ではないはずでしょう。大切な家族の一員のためにフィラリア症の予防をしっかりしてあげましょうね。

最後に、ここまでフィラリア症についての説明を読みながら「ワンちゃんって怖い病気にかかるんだなぁ」と思われたネコちゃんの飼い主さん!!フィラリア症はネコちゃんにも感染するんです!!ですから、ネコちゃんにもフィラリア予防をしてあげる必要があるんです。今まで知らなかったネコちゃんの飼い主さんは、是非かかりつけの動物病院にご相談してみてくださいね。