家庭の獣医学|No.9 狂犬病について考えてみよう

狂犬病ってどんな病気?

狂犬病は、狂犬病ウイルスを病原体とするウイルス性の人獣共通感染症であり、人を含めたすべての哺乳類が感染し、毎年世界中で約5万人の死者を出しています。水などを恐れるようになる特徴的な症状があるため恐水病または恐水症と呼ばれることもあります(実際は水だけに限らず音や風も水と同様に感覚器に刺激を与え痙攣等を起こします)。
狂犬病には「潜伏期間が長い」「明確な治療法がなく死亡率が100%」という特徴があります。このため、咬まれた後も、しばらくは何事もなかったように生活できても、“気付いた時には手遅れ”になってしまう大変恐ろしい病気です。

日本では発生しない?

狂犬病予防法が制定される1950年以前、日本国内では多くの犬が狂犬病と診断され、人も狂犬病に感染し死亡していました。このような状況のなか狂犬病予防法が施行され、犬の登録、予防注射、野犬等の抑留が徹底されるようになり、わずか7年という短期間のうちに狂犬病を撲滅するに至りました。この事例を見ても、犬の登録や予防注射が狂犬病予防にいかに重要な役割を果たすかが理解できます。

狂犬病は1958年以降、日本国内で人も動物も発生していません。とはいえ、“今後も日本では発生しない”と言えるのでしょうか?狂犬病は、日本の周辺国を含む世界のほとんどの地域で依然として発生しています。日本では数種類の動物に対し、動物検疫が行われていますが、検疫対象外の動物や、不正輸入による持ち込みの危険性が指摘されています。人・動物の行き来が国際化した現在では、狂犬病の侵入の恐れは増大しており、“今後も日本では発生しない”とは言いきれません。

万一狂犬病が国内で発生した場合には、素早くしっかりと発生の拡大とまん延の防止を図ることが非常に重要となります。そのためには、犬の飼い主一人一人が狂犬病に関して正しい知識を持ち、飼い犬の登録と予防注射を確実に行うことが必要であり、そうすることによって公衆衛生の向上と公共の福祉の増進に寄与しているということを飼い主の方にはしっかりと自覚していただくことが望まれます。

日本の狂犬病予防注射接種率、75%?40%?

世界保健機関(WHO)は、「狂犬病の流行を阻止するには狂犬病予防注射接種率は70%以上必要」としています。日本は、この70%を上回っているのでしょうか?

このように、実際には登録頭数の倍ほどの犬が飼育されていると考えられており、推定飼育頭数から見た接種率では、最低目標の70%を大きく下回っていると考えられ、安心できる状況とは言えません。

このような状況下の日本で狂犬病が侵入してきたら、狂犬病の蔓延・流行を阻止することはできません。狂犬病の予防注射を受けないことは愛犬を危険にさらすだけでなく、あなた自身を危険にさらしているのと同じことです。大切な愛犬・飼い主の皆様・社会のために狂犬病予防注射を受けましょう。

犬はどうして登録と狂犬病予防注射が必要なの?

登録は犬の戸籍です。犬の所在地や所有者、特徴等を把握し、全ての飼い犬(生後91日齢以上の犬)を、野良犬や他の飼い犬と区別することによって、狂犬病の発生を防ぐのに役立っています。

狂犬病予防法の改正により、平成7年4目1日以降に手続きされた登録は、その犬の生涯にわたり、有効となりました。なお、狂犬病予防注射は、今までどおり毎年度1回受けなければなりません。

狂犬病は人間にもうつるウイルス性疾患で、全ての温血動物が感染します。動物に咬まれて、いったん発症すればほぼ100%死に至る恐しい伝染病です。日本国内では、昭和33年を最後に発生がありませんが、世界各国では、今日でも発生が報告されています。

ペットブームの到来で、国内にもたくさんの動物が輸入されており、海外から狂犬病ウイルスが持ち込まれることも決して否定できません。万一、狂犬病が日本国内で発生した場合、飼い犬から人間へと伝染してゆくのを防ぐために、登録と年1回の注射が法律(狂犬病予防法)で義務づけられているのです。